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2018.09.28「ポルシェのブランディング その2」

前回その1のアップから随分長い期間、放置してしまいました。もうコンテンツ・マーケティングについて語る資格はないと思います(笑)

さて、そもそもポルシェのブランディングについて書こうと思ったのはポルシェが電気自動車を開発中という記事を見たからでした。もう昨年のことになりますが、この記事を見た時は若干驚きました。正直、ポルシェというブランドと電気自動車は似合わないとの先入観が自分の中にあったからです。即ち「ピュア・スポーツ」=「ガソリンエンジン」という先入観です。既にフォーミュラEという電気自動車だけのレースが始まっているにも関わらず、あまり人気がパッとしないのもその一因でした。ピュア・スポーツ車の代表格であるポルシェが電気自動車なんて、日和ったな、時代に迎合しているのか、というのが第一印象でした。

しかし、色々と調べてみると(これはポルシェファンであれば周知の事実かも知れないですが)ポルシェの創始者であるフェルディナント・ポルシェ博士が最初に作った、いわゆる「ローナー・ポルシェ」は電気自動車であったという事実を知りました。(ポルシェは公式にはその息子のフェリー・ポルシェが開発したいわゆる「356」をブランドの起源としており、ローナー社でフェルディナントが作った車は当然ながら外史扱いされています)

実はガソリンエンジン車が自動車のディファクト・スタンダードになったのはもう少し先の話で、フェルディナントが活躍した1800年代末から20世紀初頭にかけては、ガソリン車をはじめ、蒸気自動車や電気自動車などが混在して覇を競っていたそうです。騒音の激しかったガソリン車よりもっと静かな車を、というローナー社の要請に応じてポルシェ博士が設計したのは、操舵可能な前輪にインホイールモーターを直接取り付けたBEV(バッテリー式電気自動車)だったのです。これは当時としては伝動効率を考えた画期的な設計でした。

この辺りの史実についてはこちらの論文が詳しいので、ご興味のある方は是非ご一読ください。

www.ei.u-tokai.ac.jp/morimoto/docs/ポルシェ博士.pdf

(「ローナー・ポルシェ」ウィキペディアより)

というわけでポルシェというブランドのオリジンに電動自動車が確固として存在することがわかりました。ポルシェにとって電気自動車を開発するということは決して時代への迎合でも何でもなくむしろ先祖返りと言ってもいい訳なのです。 この文脈で私なりにポルシェのブランド・ミッションをここで定義してみましょう。 「その時代の最適の動力源を使って、最も早く走る車を作る」それがポルシェというブランドのミッションである。ということになります。 さて最新のネットニュースが伝えるところによりますと、ポルシェは電気自動車を開発中どころではなく、2027年までに「911」を除く、すべてのモデルをBEV化する計画だということなのです。

ポルシェは2027年までには「911」以外は全モデルをBEV(電気自動車)にする方向か

(ポルシェが開発中の電気自動車 公式サイトより)

ここにポルシェというメーカーの経営の真髄を見る思いがします。前回お話ししたようにポルシェはVWやトヨタなどの巨大メーカーから見ると桁違いに小さく、一方フェラーリなどの手工業的メーカーから見ると、30倍もの規模を持つマスプロメーカーです。それがポルシェの特異性であり、ある意味強みでも弱みでもあるわけです。 このポジショニングでBEVと ICE(内燃機関自動車)の両方を抱えて行くことは資金的に困難です。だからこそポルシェの経営陣は思い切って「911」以外の車種を電気自動車化する大英断を下したのです。 当然、この背景には「サスティナブル」という時代の要請があります。それだけでなく、自らのブランド・ミッションに忠実であろうとする企業姿勢があります。 私の予想では、その大胆にも思える経営戦略と巧みなブランディングによって、ポルシェは将来ともその特異なポジショニングを守り続けて行くだろうと思います。そしてブランド戦略の教科書にポルシェの名前が刻まれ続けることでしょう。 (この項 完)