中国ニュースを配信しているサイト「サーチナ(Searchina)」が先ごろ伝えるところによると、中国でマクドナルドがこっそりと社名変更したとの噂が広まっていたが、マクドナルド側が「麦当労(中国)有限公司は10月12日に金拱門(中国)有限公司に改名した」と発表、情報が事実であったことを認めたとのことです。
中国に一度でも旅行した人なら誰でも目にする「麦当労」。「麦当労」は「マクドナルド」の広東語音訳をベースとした漢字名であり、中国本土や香港のほか、台湾でも用いられています。同記事は、変更後の社名「金拱門」(「ゴールデン・アーチ」という意味。Mのロゴからとっている*筆者注)が非常に中国らしい名前であり、他のファストフードブランドも見習って中国らしい名称に変更すべきだとの声が出た。と紹介しています。
ところが、どうやらこれは一面的な見方のようで、別の中国情報サイト「Record China」によると「中国ではこの社名変更にブーイングの嵐が起きている。以下は中国版ツイッター・微博(ウェイボー)に書き込まれたコメントの一部。
「ダサすぎる!」
「とんでもなくダサい」
「何これ、テキトーすぎない?」
「ひどい社名だ」
「いきなり田舎っぽくなったな。『おい、今どこにいる?』『金拱門だよ』って(笑)」
「これで中国市場を失ったな」
「売り上げに響くと思う」
「『ママ、ぼく金拱門が食べたいよ』とか(笑)」
「『いらっしゃいませー、金拱門へようこそ!』って、冗談としか思えない」
「何か中国市場を誤解していないか?」
「中国人に対しても誤解がありそう」。。。」と散々な言われ方をしています。どうやら、「金拱門」というのは中国での伝統的なイメージの名前で、SNSを愛好しているような若者たちにはいかにも古臭く、近代的なファストフードにはふさわしくないネーミングと思われているようです。
マクドナルドにとって中国市場は1990年の上陸以来、急発展を続けてきた最大重要市場の一つ。ところが、近年価値観の多様化や中国系ファストフード店の台頭により経営が苦しくなり、マクドナルドの中国法人は今年の8月に中国の国有複合企業「中国中信集団」が買収しました。そういう訳で今回の社名変更は「今後は中国資本によるローカリゼーション経営を行いますよ。」というメッセージでもあったと思われます。(誤解のないように付け加えておきますが、今回の変更はあくまで経営会社の社名だけであって、店舗名は今迄通り「麦当労」で行くと発表がなされています。)
ところで、日本語にはカタカナという便利な表音文字があって、外国のブランドの発音もそれなりに原語に近いカタチで伝えることができます。ところが、これは中国でブランド戦略を行う上での大きな問題点なのですが、中国にはカタカナがないので、発音に近い漢字を当てることになります。マクドナルド=麦当労(マイタンロウ)、コカコーラ=可口可楽(クコクラ)などはそれなりに、意味も音もうまく伝えている秀作だと思いますし、実際、定着もしています。しかし、この当て字(言い換え)がうまくいかず、ブランドイメージが分散して苦労している企業もたくさんあります。
近年、中国では小学生から英語教育が始まっていると聞いていますし、英語を読み書きできる人はどんどん増えていると思います。筆者などはいずれ英語系のブランドの場合当て字の必要もなくなるのではないかと思うのですが、そこは中華思想の故か、誇り高い民族性の故か、必ずしもそうはならないみたいです。ブランド戦略家たちの苦労はまだまだ続きそうです。