私事で恐縮だが、健康のために駅までの通勤路を毎朝およそ20分あまり歩いている。最近は気候が良いので快適だが、もう一つ楽しみが加わった。イヤフォンでiPhoneから聴くSpotifyだ。
Spotifyとは音楽配信サービスの一つで、Apple MusicやGoogle Play Musicなどと同様のものだ。それぞれのサービスにはそれぞれの特徴や強みがあるのだが、それはここでは省略する。数ある配信サービスの中から私がSpotifyを選んだ訳は、Spotifyが自宅に所有するSONYのオーディオ機器と連携していて、その音源データを「ハイレゾ」に転換して聴けるからだ。月額980円のプレミアム会員に登録すると最高音質でCMのない音楽が配信される。自宅ではこれを据え置きのオーディオ装置を通じてハイレゾ音質で聴き、外出時にはiPhoneにダウンロード保存した音楽を聴く。事務所のMACでも同じアカウントでログインできるので、仕事中も好きな音楽をBGM的に流している。
Spotifyの導入によって、私にとって二つの商品がその価値を著しく失墜させてしまった。それはCDとiPodである。先ず、CDショップに行って好きなジャズの新譜を探す楽しみが奪われた。ダイアナ・クラールの新譜も、寺井尚子の新譜もSpotifyにあるのでそれを聴く。好きなアーティストのアルバムを検索しては(時には興味を引いた知らないアーティストの曲も)ダウンロードして出先でiPhoneで聴く。なので、iPodも要らなくなった。こうして新しいインターネット・サービスが古いメディアやハードウェアを駆逐していくのである。
Spotifyの操作画面のデザインはシンプルで、スタイリッシュでなかなか使いやすい。シンプルなアイコンも好きだし、「スポティファイ」という名前の響きも気に入っている。このネーミング、私はSportsとHi-fiの合成語かと思ったが、そうではないようだ。
ちょっと調べてみると、ネーミングの由来について創業者でCEOのDaniel Ek自身が語っているページがあった。
「Martin(同僚)とボクは別々の部屋にいて、『口語創出サービス』を使いながら、口々にいろんな社名のアイデアを叫んでいたんだ。突然Martinが叫んだ言葉がボクにはSpotifyと聞こえた。すぐにググってみると、全くヒットしなかった。なので、数分後にはドメインネームとして登録したんだ。」「こんな具合なので、ちょっと恥ずかしいが、後付けでSPOT とIDENTIFYに由来する、と言ってるんだ。」(”Quora”より。筆者訳)
なんだ、そうだったのか?まあ、ネーミングとはそんなものだと言えば、身もふたもないが、偶然の産物がのちに大きなブランド資産になることはよくある事だろう。
Spotifyはブランド・コンサルティング会社米Prophetの調査「生活で最も使えるブランド・ランキング」で堂々8位に入っている。(ForbesJapan2016.1.24の記事より)
ソーシャル機能やキュレーション機能を備えたSpotifyはコミュニティや広告媒体としての潜在力も大きいものがある。
機能や性能だけでなく、ブランドとしての価値もますます高まっていくだろう。
私にとっても、このブランドとは、この先末長く付き合っていくような気がする。
追記)Spotifyが掲げるブランド・ビジョンは「持続可能なフリーミアム(誰もが無料で音楽を聴くことができて、アーティストにも収益が還元される仕組み)」とされている。ところが、実際にはミュージシャンの中にはSpotifyに反対する人たちもいる。テイラー・スウィフトなんかは利益的でないという理由で全曲引き上げてしまった。一時期のamazonと書店の争いを連想させるが、問題はお金だけではないだろう。アーティストと顧客の接点をどう形成するか、双方の知恵が求められていると思う。